ユニセフ(=国連児童基金)は日本を含む先進国や新興国など38か国を対象に各国のさまざまなデータをもとに子どもの幸福度をはかる調査を7年ぶりに実施し、その結果を発表しました。
今回の調査は新型コロナウイルスの感染拡大前に実施されたということで、新型コロナウイルスの子どもたちへの影響は大きく、子どものメンタルヘルスは健康問題の一部として積極的に対策に取り組むべきだとして、感染拡大を受けて一層の対策が求められそうです。
最新の調査結果はどのようになっているのでしょうか?今回は気になる結果をご紹介します。
ユニセフ『レポートカード16』とは?
ユニセフ・イノチェンティ研究所が、2000年以降ほぼ毎年1冊の割合で発行している、先進国の子どもに関する『レポートカード』シリーズ(レポートカードは通信簿の意)の最新刊。レポートカード11(2013年)やレポートカード7(2007年)で行った子どもの幸福度の分析・ランキングの手法に基づき、さらに、子どもたち自身の行動や人間関係、保護者がもつネットワークやリソース、各国の政策や条件も含めて、包括的に子どもたちの幸福度を分析しています。
最新の報告書の結果は?
ユニセフ(国連児童基金)・イノチェンティ研究所が発表した「レポートカード」シリーズの最新報告書は、自殺、不満、肥満、低い社会的スキルや学力といったことが、先進国の子どもたちに共通に見られる特徴になっていることを明らかにしました。
レポートカード16『子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か(原題:Worlds of Influence: Understanding what shapes child well-being in rich countries)』 |
20年続くレポートカードシリーズは、各国の比較可能なデータを元に経済協力開発機構(OECD)または欧州連合(EU)に加盟する国々の子どもの状況をランキングで示しています。
これらの指標によれば、オランダ、デンマーク、ノルウェーが、子どもが住む場所として、最も順位の高い国々、という結果が示されました。
■ユニセフ・イノチェンティ研究所について
イノチェンティ研究所は、ユニセフのリサーチ部門です。子どもの課題に関する調査研究を行うことで、ユニセフおよびパートナーの戦略的方向性、政策およびプログラムを支え、子どもの権利や発達に関する世界的な議論を促し、すべての子どもたち、特に最も弱い立場にある子どもたちのための調査や政策課題の形成を支えています。
イノチェンティ研究所所長 グニラ・オルセン氏
「世界で最も豊かな国々の多くは、すべての子どもたちに良い子ども時代を提供するリソースを持っていながら、それが果たせていません」と、イノチェンティ研究所所長のグニラ・オルセンは述べています。
「政府がパンデミックへの対応の一環として、子どもたちの幸福度(wellbeing)を守るための迅速で確固たる行動をとらなければ、子どもの貧困率が上昇し、精神的・身体的健康状態が悪化し、スキルの格差が広がり続けるかもしれません。COVID-19関連の子どもや家庭へのサポートはひどく不十分です。子どもたちに安全で幸福な子ども時代を提供するために、より多くのことをしなければなりません。そしてそれは今です」
イノチェンティ研究所所長のグニラ・オルセン氏
2020年9月 先進国のランキングの結果は?
子どもの幸福度の調査は7年前の2013年に31か国を対象に今回とは異なるデータももとにして実施されていますが、この時は日本は全体で6位でした。
今回は、1位がオランダ、2位はデンマーク、3位はノルウェー、そしてスイス、フィンランドと上位をヨーロッパの国が占め、日本は20位となっています。
分野別では?
調査では体の健康、精神的な幸福度、学問やスキルの3分野でそれぞれ順位をつけています。
身体的健康
日本は子どもの肥満の割合や死亡率などから算出した「身体的健康」の分野では1位でした。
肥満や過体重の子どもたちの割合は近年増加しています。ほぼすべての国でおよそ3人に1人の子どもが、肥満または過体重の状態にあり、ヨーロッパ南部ではその割合が急増しています。先進国の1/4以上の国で、いまだ乳幼児死亡率が1,000人中1人以上です。
学問・スキル
一方で学問などの能力をはかる「スキル」では、学問的な習熟度は高いものの社会的な適応力で上位の国におとり、27位でした。
OECD、EU諸国において、平均して40%の子どもが、15歳時点で読解力と数学の基礎的学力を身につけていません。ブルガリア、ルーマニア、チリがその割合が最も低い3カ国でした。最も高かったのはエストニア、アイルランド、フィンランドです。ほとんどの国で、少なくとも5人に1人の子どもは、新しい友達を作るという社会的スキルに自信をもっていません。チリ、日本、アイスランドの子どもたちが、この分野で最も自身のない子どもたち、という結果でした。
精神的
そして「精神的幸福度」では、15歳時点での生活の満足度の調査結果や若者の自殺率などから算出した結果として37位となりました。
多くの国で、生活に満足していると答えた子どもは5人中4人以下でした。その割合が53%と最も低かったのがトルコで、続いて日本(62%)、英国(64%)でした。反対に最も高かったのがオランダ、次いでメキシコ、ルーマニアでした。家族からのサポートがより少ない子どもたち、いじめに遭っている子どもたちは、あきらかに、精神的健康がより低い結果になりました。
自殺で亡くなる若者の割合が最も高いのはリトアニアで、ニュージーランドとエストニアがそれに続きます。自殺は、先進国の15~19歳の子ども・若者の死亡の主要な要因となっています。
COVID-19の影響により後退する恐れ
報告書には、子どもの幸福度の向上が明確に見られた分野のデータも含まれています。平均して、就学前教育年齢の子どもの95%が、現在体系的な学習プログラムに参加しており、15~19歳の若者のうち、教育や雇用、職業訓練に参加していない人の数は、37カ国中30カ国で減少しています。しかし、こうした重要な前進は、COVID-19の影響により後退する恐れがあります。
また、子どもの幸福度を支える政策と、経済、社会、環境面の状況についても各国を順位付けしています。ノルウェー、アイスランドとフィンランドは、政策と状況の面で最も高い順位となりました。家族や子どもに関する政策への支出は、平均するとGDPの3%以下でした。
COVID-19の発生により、2020年前半には、報告書の対象国のほとんどが100日以上学校を休校にし、厳しい外出制限政策をとりました。報告書は、家族や友達を失うこと、不安、外出制限、サポートの欠如、学校の休校、仕事と家庭のバランス、保健サービスへのアクセスの不足は、パンデミックによる経済的損失と合わさり、子どもたちの心身の健康や成長、そして幸福度にとって、大きな影響があると指摘します。
COVID-19以前の子どもの貧困率は41カ国の平均で20%でした。これらの国のほとんどで、2年間にわたってGDPが減少すると予想されているため、政府が早急に改善策を講じない限り、子どもの貧困は増加するでしょう。
子どもの幸福度を改善するために
本報告書を通じてユニセフは、子どもの幸福度を改善するために以下のことを求めています。
- 所得格差と貧困を減らすために確固とした行動をとり、すべての子どもが必要な資源にアクセスできるようにする
- 子ども・若者のためのメンタルヘルスのサービスに関する深刻な格差を是正する
- 仕事と家庭のバランスを改善し、特に、質が高く柔軟で安価な乳幼児保育へのアクセスを改善するため、子育て支援策を拡充する
- はしかの予防接種率の最近の低下を逆転させることを含め、予防可能な病気から子どもを守るための策を強化する
- 子どものいる家庭を支援するCOVID-19関連の政策を改善し、子どもの幸福度を支える予算が緊縮財政措置から守られるようにする
「パンデミックによる経済、教育、社会への影響が続く中、一致して取り組まなければ、今の子どもたちの幸福度、その家族や社会への影響はさらに悪化し、破壊的なものになるでしょう。しかし、今各国政府が、子どもたちの幸福度を守る確固たる行動をとれば、これらのリスクは現実にならずに済むのです」
イノチェンティ研究所所長のグニラ・オルセン氏
ランキング1位の「オランダ」の子育てとは?
今回の子供の幸福度ランキングで1位を獲得している国は「オランダ」です。
そんなオランダの子育て術についてもご紹介します。
子どもとの時間を持つこと
オランダの子供の幸福度が高いのは、両親の労働時間に関するサポートに理由があります。1996年にできた「労働時間差差別禁止法」によって、企業に勤める1人あたりの労働時間が、週40時間から38時間に縮まったそうです。
労働時間によって待遇に差別は起こらないので、男性でも週休3日でパートタイムといった働き方もOKだそうです。子どもと密な時間を取りやすいように国全体が育児に協力的であるというのは、子育て中のご家庭にとってはとても嬉しいことです。
主体性を伸ばす教育スタイル
教育面に関してランキングを見ると、日本も決して低い順位ではないのですが、オランダでは、日本とは全く異なるスタイルの教育法を推進していました。
その教育法とは、なんと入学試験なし、学費は無料、時間割は自由、宿題はなし、というなかなか自由な制度です。一方で、授業のスピードが極めて早いため、集中していないとついていくことが難しく、留年も当たり前なのだそうです。
オランダの教育法は、あくまで子供の意思に任せて子供を信じる、という”主体性”を伸ばすことが基本ゆえに、遊びと勉強のメリハリがしっかりあるようです。
手厚い産後サポート
オランダの国を挙げての育児サポートは、出産後すぐ産褥師さんが毎日自宅に3〜8時間は滞在し、買い物や食事の準備、掃除や洗濯まで行ってくれるそうです。
このようなサポートは、医療保険で全てカバーされ、ほとんど自己負担額無しで受けることができるそうで、こうした制度が世界中に浸透すれば、出産に対する恐怖心や不安も減り、出産に対して積極的になれる母親が増えるかもしれません。
親のストレスが少しでも回避されれば、子供もそれを感じ、幸せに過ごすことができるのです。
食卓のあり方
子供の幸福度は、家族と共に過ごす時間が大きく影響しているようです。
労働時間や産後に関してのサポートが手厚いオランダでは、子どもが家族と一緒に過ごす時間を大切に考えられています。
「一人で食べる豪華な食事よりも、家族で食べる質素なご飯の方がより贅沢な食卓である。」これが、オランダの食に対する考え方です。家族みんなで食べれば、食卓が笑顔にあふれ、食事の味もよりおいしく感じられる、ということですね。
まとめ
今回は世界における子供の幸福度ランキングをご紹介しました。
子育てには時間とお金だけではなくエネルギーも持っていかれるので、人間関係にも影響が出てしまい心理的にネガティブになることも多いです。
世の中には子供を持つことや子育ての明るい側面ばかりが映し出されますが、こういう現実的な問題に対する情報も持っておくことも大切です。
子供と親の両軸で幸福度を高めるために、正しい知識と情報を得た上で前向きなできることをコツコツと取り組んでいきたいですね^^
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